はじめに
前回の記事では、複数のシステムに散らばる求人情報を、AIで集めて整える——という業務自動化のPoC(実証実験)をご紹介しました。
今回はその続編です。テーマは、人材紹介の”本丸”とも言える「マッチング」。集めて整えた求人データを使って、「この求職者には、どの求人が合うのか」をAIで導き出せないか——あるクライアント(人材紹介会社)と取り組んだ、もうひとつのPoCの話です。
人材紹介会社の価値は、つきつめれば「人と仕事を、的確に結びつけること」にあります。それは長らく、コンサルタント一人ひとりの経験と勘に支えられてきました。その”勘”を、AIはどこまで補えるのか。
例によって、きれいな成功談ではありません。「どこまでできて、どこからは人にしかできないのか」——その線引きまで、正直にお伝えします。
※ツール名や固有のサービス名は伏せています。また、この記事は前回のPoC記事を読んでいなくても理解できるように書いています。
クライアントが抱えていた課題
人材紹介会社のコンサルタントは、日々こんな仕事をしています。
ある求職者と面談し、経歴・スキル・希望・人柄をつかむ。そのうえで、自社が抱える求人の中から「この人に合いそうな会社」を見つけ出し、推薦する。
シンプルに聞こえますが、ここには難しさがあります。
- 扱う求人は、特定の業種に絞っても何千件規模。1件ずつ思い出して照らし合わせるのは、現実的ではない
- 「合う/合わない」の判断は、コンサルタントの経験と勘に強く依存する。ベテランと新人で、出てくる候補が変わる
- 結果として、普段よく扱う”おなじみの求人”に偏りがち。本当はもっと合う求人が、求人プールの奥に埋もれているかもしれない
クライアントが抱えていたのは、まさにこの状態でした。専門とする業種に絞っても、求人は何千件にのぼる。その全部を毎回フラットに見渡して、最適な1社を見つけ切るのは、人間の集中力では難しい。
「この”目利き”を、AIで支えられないか」——それが、今回のPoCの出発点です。
なぜ、マッチングは「検索」では解けないのか

「求人を探すだけなら、検索でいいのでは?」と思われるかもしれません。でも、マッチングは検索とは別物です。
検索は、条件で絞り込むことしかできません。「東京・年収600万以上・エンジニア」で絞れば、該当する求人は出てきます。でも、それは”条件に合う求人”であって、”その人に合う求人”ではありません。
実際のマッチングで効くのは、もっと曖昧な情報です。「腰を据えて長く働きたい人だから、落ち着いた社風の会社がいい」「裁量を求めるタイプだから、大企業より成長中の組織」——こうした言葉にしづらいニュアンスこそが、推薦の質を決めます。
条件の絞り込みでは、ここに手が届きません。だからマッチングは、長らく人の”勘”に頼るしかなかったのです。
そして——前回の記事と同じ構図ですが——この「曖昧なニュアンスを汲み取る」部分こそ、推論を得意とするAIが力を発揮できるところでした。
作っていく過程
ここからは、実際にどうPoCを組み立てたかをご紹介します。進め方は前回と同じ。私たちが大まかな設計と方向性を決め、実装とテストはAIと進める——その役割分担です。

STEP 1:候補者を「対話」でつかむ
まず考えたのは、「候補者の情報を、どうやってシステムに入れるか」です。
かっちりした入力フォームを作る手もありました。でも、それだと「フォームの項目にない情報」が抜け落ちます。人材紹介で大事なのは、むしろ項目化しづらい部分です。
そこで、対話形式(チャット)でのヒアリングにしました。コンサルタントが、面談で聞いたことを会話するように入力していく。職務経歴書などのファイルがあれば、それを読み込んで、AIが要点を先に拾っておき、足りないところだけ追加で質問する。
「フォームを埋める」のではなく、「話す」。この入口にしたことで、候補者の解像度がぐっと上がりました。
STEP 2:候補者を「比べられる形」にする
対話で集めた情報は、そのままでは雑多なメモです。これを、求人と照らし合わせられるプロファイル(候補者の構造化データ)に変換します。
ここでもう一工夫。自由記述のヒアリングに加えて、タグ選択の仕組みを入れました。「重視する働き方」「志向するフェーズ(安定/成長)」といった軸を、選択式で押さえておく。自由記述だけだと揺れる部分を、タグで補強する。
これは前回のPoCと同じ発想です。規則的に押さえられるものはタグ(ルール)で、ニュアンスは対話(AI)で。 全部をAIに委ねず、使い分ける。
STEP 3:2段構えでマッチングする
いよいよマッチングです。ここはあえて、2段構えにしました。
特定の業種に絞った求人プールでも、その数は何千件規模(このPoCでは約2,600件)。これをすべて、いきなりAIにじっくり吟味させると、時間もコストもかかりすぎます。そこで——
- 1段目:軽い計算で、ふるいにかける。 候補者と求人の「条件の一致」と「意味の近さ」をざっくりスコア化し、数千件から有望な20件ほどに絞る。
- 2段目:AIが、1件ずつ精査する。 絞られた20件について、AIが候補者プロファイルと求人を読み比べ、「推薦/条件次第/除外」を理由つきで判定する。
軽い処理で大きく絞り、重い処理(AIの精読)は本命だけに使う。精度とコストを両立させる切り分けです。
STEP 4:AIに「理由」を語らせる
このPoCで、私たちがいちばんこだわったのが、ここです。
マッチング結果を「この求人がスコア87点です」とだけ出されても、コンサルタントは使えません。なぜ合うのか、なぜ外したのかが分からなければ、自分の判断に取り込めないからです。
そこで、AIには判定だけでなく、必ず「理由」をセットで出させるようにしました。「長期就業を望む候補者の志向と、腰を据えた働き方を重視する社風が合致」「年収レンジは合うが、求められる経験年数がやや不足」——こうした一文が、各求人に添えられる。
これによって、出力は”答え”ではなく、コンサルタントが判断するための”たたき台”になりました。AIが選び、人が決める。なぜこの形にしたのか——その理由は、後の章で正直に書きます。
STEP 5:会話で、結果を調整する
マッチングは、一度実行して終わりではありません。
結果を見たコンサルタントが、「もっとヘルスケア寄りで、営業職は除外して」——そんなふうに、ふつうの言葉でフィードバックを返せるようにしました。AIがその意図を汲んで、候補者プロファイルを調整し、もう一度マッチングし直す。
「条件をどの欄でどう変えればいいか」を考える必要はありません。思ったことを言えば、AIが調整に翻訳してくれる。 コンサルタントは、結果を見て対話するだけ。この身軽さも、AIと作ったからこそ実現できた部分です。
何が変わったか
| 観点 | Before(コンサルの手作業) | After(PoCで作ったツール) |
|---|---|---|
| 求人の見渡し | 記憶とおなじみの求人が中心 | 数千件すべてをフラットに評価 |
| 候補者の入力 | 頭の中・個人のメモ | 対話形式でプロファイル化 |
| 合う/合わないの判断 | 経験と勘(属人的) | AIが理由つきで提示(たたき台) |
| なぜその求人か | 説明は人それぞれ | 判定理由が言語化されて残る |
| 結果の調整 | 一から考え直し | 言葉でフィードバック→自動で再マッチング |
注目していただきたいのは、「最終的に誰が決めるか」は変えていない点です。決めるのは、これまでどおりコンサルタント。AIは、見渡しと下ごしらえと言語化を引き受け、人は判断に集中する。役割が変わったのです。
正直に言うと、これは”完成品”ではない

ここまで読むと、うまくいった話に聞こえるかもしれません。実際、PoCとしては確かな手応えがありました。でも、フェアにお伝えしておきたいことがあります。
今回のPoCで作ったのは、完成品ではありません。 このマッチングの精度が本当に「良い」のかは、実際の業務で使い、KPIと突き合わせて検証することでしか分かりません。
そして、その「KPI」は一つではありません。応募、書類通過、面接、内定、入社、定着——どの段階を”成果”と見るかは、目的によって変わります。どの段階のKPIを、どう追っていくのか。それを決め、結果に合わせてマッチングを調整していく。そのサイクルは、PoCの段階ではまだ回せていません。
だから今の時点で「このマッチングの精度は完璧です」と言い切ることはできません。STEP 4でAIに最終判断をさせず、理由つきの”たたき台”に留めたのも、これが理由です。精度を保証できない以上、AIの判定を鵜呑みにはできない。人が自分の目で確かめられる形にしておく必要がありました。
ただ——ここを誤解しないでいただきたいのですが——「だから精度は上げられない」という話では、まったくありません。 むしろ逆です。精度を上げていく道筋は、はっきりと見えています。
精度は、ここから大きく上げられる
今回のPoCで作ったマッチングは、あくまで出発点です。ここから精度を高めていく手立ては、いくつもあります。代表的なものを挙げてみます。
- フィードバックループを組み込む — コンサルタントが下した「推薦/条件次第/除外」の判断や、その後の選考の進み方を、マッチングの学習に回す。使えば使うほど賢くなる仕組みにしていく。
- 成果データと突き合わせる — 応募・書類通過から内定・入社・定着まで、各段階の結果を記録し、「どんなマッチングが成果につながったのか」をAIに学ばせる。
- AI面談ツールと連携する — 候補者へのヒアリングの一部をAIが担う仕組みとつなぎ、候補者プロファイルの精度と鮮度を底上げする。
- 自社のオリジナルデータを活かす — 紹介会社が長年積み上げてきた推薦・成約のデータは、何より強力な学習材料になります。
正直に言えば、どれも簡単ではありません。結果が出るまでに時間がかかり、検証は地道な作業の積み重ねです。難しい。 でも、「難しい」ことと「できない」ことは違います。やるべきことの道筋は、はっきりしている。あとは、その改善サイクルを根気よく回し続けられるかどうかです。
AIの”一日の長”と、人材紹介会社のこれからの肝
ここで少し視点を引いて、ビジネスの話をさせてください。今回のPoCを通じて、はっきり見えてきたことがあります。
それは、マッチングという仕事において、AIには人間にない”構造的な強み”がある、ということです。
人間のコンサルタントは、何千件もの最新求人を、すべて頭に入れてはおけません。記憶には限りがあり、判断はどうしても”よく知っている求人”に寄っていきます。
AIは違います。記憶の容量に実質的な上限がなく、前回のPoCのような仕組みで集まってくる鮮度の高い求人を、抜け漏れなく・網羅的に引き出せる。 「最新の求人を、全部、フラットに見渡す」——ここはAIに明確な”一日の長”があります。前回のPoC(求人データの自動収集・整理)が、ここで土台として効いてくるわけです。
だとすれば、人と会社がやるべきは、AIと同じ土俵で張り合うことではありません。AIの強みを”補完”する力をどう育てるか——そこに、これからの人材紹介会社の競争力がかかっています。
たとえば、こういう方向です。
- 接客・信頼関係 — 候補者の本音や迷い、言葉にならない希望は、対話と信頼の積み重ねの中でしか出てきません。ここは、人にしか担えない領域です。
- オリジナルデータの蓄積と活用 — 自社がこれまで重ねてきた推薦・成約・定着のデータは、他社には真似のできない独自資産です。これをマッチングの学習に活かせるかどうかが、今後の大きな”肝”になります。
- “次の一手”の自動化 — マッチングで浮かんだ候補者への初回アプローチ(スカウト文面の作成・送信)を半自動化するなど、”見つけた後”の動きまで含めて設計する余地があります。
AIが「網羅と鮮度」を引き受け、人が「信頼と判断」を担い、会社が「独自データ」で差をつける。 この組み合わせを、業務の流れ全体で設計していく——そこに、人材紹介のAI活用の、本当の伸びしろがあります。
こんな”目利き”業務、ありませんか?
最後に。今回のような「AIによる目利き支援」が向いている業務の特徴を挙げておきます。
- 大量の選択肢の中から、最適な組み合わせを選ぶ業務
- その判断が、担当者の経験や勘に依存していて、属人的になっている
- 単純な条件検索では絞り切れず、曖昧なニュアンスが結果を左右する
- 「なぜそれを選んだか」を、説明できる形で残したい
人と仕事のマッチングに限りません。顧客と商品、案件と人材、物件と希望条件——「目利きが要るが、件数が多くて属人的」な業務は、どの会社にもあります。
そうした業務こそ、AIとのPoCが効きます。AIにすべてを任せるのではなく、人の判断を支える”たたき台”をAIが用意する。その形なら、現場に無理なく入っていけます。
まとめ
人材紹介の”本丸”であるマッチングを、AIで支えられないか——その実証実験(PoC)の過程をご紹介しました。
- 入口は「対話」に。フォームではなく会話で、候補者の解像度を上げる。
- 2段構えで絞る。軽い計算でふるいにかけ、本命だけAIが精読する。
- AIには「理由」を語らせる。答えではなく、人が判断するためのたたき台を出す。
- 精度は、ここから上げられる。フィードバックループや成果データの活用で、使うほど賢くなる。
今回のPoCは、完成品ではなく出発点です。でも、精度を上げていく道筋は、はっきりと見えています。そして何より見えてきたのは——AIには「網羅と鮮度」という構造的な強みがあり、人材紹介会社のこれからの競争力は、それを補完する力(接客・信頼関係)と、自社だけが持つオリジナルデータの活用に移っていく、ということです。
AIと、人と、独自データ。この3つの組み合わせを、業務の流れ全体で設計する。そこに、大きな伸びしろがあります。
当社では、こうした業務へのAI活用・PoCのご相談を承っています。「うちのあの”目利き”業務、AIで支えられないか」と思い当たることがあれば、お気軽にお声がけください。
シリーズ記事
この記事は、AI活用PoCシリーズの「後編」です。前編もあわせてどうぞ。



